更新日:2025年1月28日
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前田遺跡
前田遺跡の概要
前田遺跡(位置:外部サイトへリンク)は、姶良市の中央部に位置する住吉池の南側の斜面にあります。住吉地区の水田の区画整理に伴う発掘調査で縄文時代から古代(奈良・平安時代)までの遺構や遺物が見つかりました。
住吉池(北側・奥)と前田遺跡(南側・手前の赤線の範囲)
この遺跡の最も特徴的な点は、地形が谷状となった低湿地部分に掘られた縄文時代中期後半(約4500年前)の土坑(どこう)72基と、ドングリや編みかごなどの植物質遺物が出土したことです。
これらの植物質遺物は通常の遺跡では残りませんが、前田遺跡では常に水に浸かり、微生物に分解されにくい状況にあったため奇跡的に残っていました。
ドングリを貯蔵した土坑群や編みかごは、鹿児島県内の縄文時代の遺跡から初めて出土しました。前田遺跡は縄文時代の人々がさまざまな植物を管理・利用していたことが分かる重要な遺跡といえます。
左:低湿地部分の航空写真、右:低湿地部分に掘られた土坑
左の写真では、土坑内に水が溜まっています。土坑やその周囲から常に水が湧いており、水を排水しても1日ほどで満杯になる状態でした。
ドングリ
前田遺跡から出土したドングリの種類はほとんどがイチイガシであり、低湿地部分全体から10万点以上出土しています。
ドングリは土坑に貯蔵されていたと考えられ、一部の土坑では密集した状態で出土しました。これまで土坑にドングリを貯蔵する理由については、灰汁(あく)抜き、虫の食害(しょくがい)の防止、虫に食われて軽いドングリを浮かせて選別するなどの使用方法が想定されてきました。
イチイガシは灰汁抜きの必要がないこと、土坑から出土したイチイガシには虫食いの穴があるものが数多くみられるため、これらを選別・除外するため水に漬けていたことが想定されます。
土坑内に密集したドングリ
編みかご
前田遺跡から出土した編みかごは、全部で14点です。これらの編みかごは、素材と編み方によって大きく2種類に分かれます。
1つはつる性の植物であるウドカズラやテイカカズラ、ツヅラフジを使用して、「もじり編み」という編み方で作られています。「もじり編み」はタテ材に対して、2本または3本のヨコ材を交差させて編む方法です。
もじり編みの編み方
もじり編みの編みかごの出土状況
もう1つはカシの仲間の木を年輪に沿って薄く剥いでテープ状にした素材を使用して、「ござ目編み」という編み方で作られています。「ござ目編み」はタテ材とヨコ材を上下に交互に編む方法です。編みかごの復元製作実験の結果、カシの仲間でもイチイガシが素材に最も適していることがわかりました。縄文時代の人々はイチイガシの実も幹(みき)も利用していたと考えられます。
ござ目編みの編み方
ござ目編みの編みかごの出土状況
その他の資料
ドングリや編みかご以外に木製品、ヒョウタン、木の葉、イノシシ・シカの骨など様々な資料が出土しています。
左:木製品、右:ヒョウタン
左:木の葉、右:イノシシの骨と歯
サクラなどの樹皮を薄くテープ状に加工した製品も出土しています。物を結ぶ、または物に巻き付ける紐のように使われていたと考えられます。
樹皮製品
ドングリ以外の木の実では、オニグルミが出土していますが、その数はわずかです。オニグルミの中には、人が打撃を加えて割った痕が残るものやネズミの食害の穴があるものもあります。
右:オニグルミの内側、左:オニグルミの外側
左:上部に人が割った痕が残るオニグルミ、右:ネズミの食害の穴があるオニグルミ
ドングリやイノシシ・シカを煮るために使う土器、ドングリをすりつぶし粉にするために使用した石皿(いしざら)・磨石(すりいし)や矢の先に付けて動物を狩るために使う石鏃(せきぞく)、木を切るまたは削るために使う石斧(せきふ)などの石器も出土しています。
左:ほぼ完全な形で出土した土器、右:磨石と石皿
住吉池マールと米丸マール
前田遺跡の北側にある住吉池は縄文時代早期の約8200年前に噴火(マグマ水蒸気爆発)した火山の跡です。火口にできた池のため丸い形になっており、このような地形をマールと呼びます。また、住吉池の西側、蒲生の市街地の北側にある米丸マール(位置:外部サイトへリンク)も住吉池の噴火の少し後に噴火した火山です。
前田遺跡の低湿地部分の土坑群はこの米丸マールの噴火で堆積した硬い土に掘られています。
関連リンク