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山口恵美3

なにげない日常の幸せを残す時間を切り取るフォトグラファー

 「写真は記録という名の宝物」そう話す山口さん。鹿児島市の写真スタジオに勤務し、人物を被写体にした作品を中心に撮影する写真家として活動。毎年約1500点が出展される南日本写真展では、平成22年の優秀賞を皮切りに特選や入選を重ねるなど、意欲的に作品を撮り続けている。
 「時間があると絵ばかり描いていた」と子どもの頃は絵画教室にも通い将来は画家になることを夢見ていた。その熱意は中学生になっても冷めることはなく、県立松陽高等学校美術科に進学。描画やデザインなど、芸術に関する授業を受けるなか、科目のひとつであった写真の授業が人生の岐路となる。授業では現在勤務する写真スタジオの経営者でもあった恩師に指導を受けた。友人たちの日々の風景を撮影するうちにレンズの向こうに流れる時間を切り取り、残す写真の力に魅せられていった。高校卒業後は陶芸窯に絵付師として就職したが、写真への想いが忘れられず退社。写真の素晴らしさを教えてくれた恩師のもとでアシスタントとして入社し、今は同社が立ち上げた子どもや家族の撮影に特化した別館写真室の責任者として多忙な日々を送る。


 山口さんはよく人物撮影を好む。きっかけは今の仕事をはじめて間もない頃、ラグビー部の撮影で、激しいタックルで気絶してもなお立ち上がりプレーする選手の姿に衝撃を受けたことだった。悪石島(十島村)の盆行事「ボゼ祭り」を題材にした作品集では、自然や伝統とともに生きる島民の暮らしを撮影。個展やマスコミでも紹介され高い評価を受けた。「何年何回撮っても緊張します」と人の持つ魅力や力強さを等身大で伝えるために、シャッターを押す指に全身全霊を傾けている。
 仕事では、お宮参りや七五三の撮影依頼も多く、記念写真のほかに子どもが合間にみせる寝顔や泣き顔も写真に収める。そのときにしか残せない我が子の表情が記念になると家族に喜ばれている。「何気ない一瞬も残してあげたい」と日常は大切な瞬間の積み重ねでできていることを信念に、被写体に向き合っている。


 「お気に入りは重富漁港」休日は子どもたちといっしょに魚釣りに出かけ、海や港を背景に子どもの写真を撮るのが癒しの時間と微笑む。これまで蒲生の体験型イベント「カモコレ」や市内の子育て支援センターで子育て世代を対象に構図や光りの当て方などの写真教室を開催。同じ子を持つ親として、子どもの成長の記録が宝物の一枚になればと取り組んでいる。仕事柄、様々な人生の節目に立ち会う機会の多い山口さん。「見た人の心が温まる写真が目標」と人の想いに寄り添い撮影する。写る人たちの幸せなひとときを切り取り、思い出の一枚を残すため、これからも相棒のカメラとその瞬間を追い続ける。

ボゼ

 十島村の悪石島に伝承されている盆行事「悪石島のボゼ」。渡航や長期滞在による取材で、島の暮らしや受け継がれる伝統を記録。島民の視点に近づき表現した作品となった。

子ども

 写真は子どもたちが母への手紙を書いている様子。声をかけて写真を撮る前に、子どものそのままの姿を記録するのも思い出の一枚になる。

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