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野村修

想いや情景を色彩でつむぎ心に写る郷土の風景を描きたい

 7月に開催されたローマン派美術協会が主催する第51回全国公募ローマン展(東京都美術館)で、応募者数109人の中から、野村さんの「溶岩台地・桜島」が最高賞の文部科学大臣賞に輝いた。ローマン派とは情緒豊かで動的なリズムや色彩表現の創造性に重点をおく絵画流派のひとつ。野村さんは、その思想を汲む洋画家として作品を世に送り出している。「見る人の心に寄り添うふるさとの桜島を表現した」と桜島の持つ力強さと生命力が描かれた作風が髙く評価された。


 自然が好きで常にスケッチブックやカメラを持ち歩き、四季折々の自然を見つけては、その風景を描いている野村さん。絵を描くようになったきっかけは、少年期の辛い体験にあった。中学生のときに不慮の事故で脊椎を損傷。歩行もままならず、休学を余儀なくされ、寝たきりの生活とリハビリに8年の月日を費やした。「病床でよく絵を描いていました」と当時を回想する。その後、中学校に復学したが、8歳下の同級生との学校生活にはじめは戸惑った。「身体的な助けはもちろん、遅れていた勉強も親切に教えてくれました」と温かい友人たちとの思い出に目頭を熱くする。蒲生高校へ入学し、鹿児島大学教育学部美術科に進学したのも友人たちが背中を押してくれた。「けがや友人との出会いで今の自分がある」と感謝し、親しい交流は続いている。


 「大学の屋上から見える桜島が好きでよく眺めていました」と錦江湾に浮かぶ雄大な桜島を生涯の画題のひとつにしている。「桜島や郷土の景色には、そこで育ったり、暮らしたりしたひとの思いがある」と自然や四季の風景を題材に情景を表現した作品制作を心がける。これまで出展した作品は各洋画展でも高く評価され、県美展や南日本美術展の入選をはじめ、ローマン派美術協会展では平成7年に「東京都知事賞」を受賞するなど、数多くの受賞歴を持つ。同協会から推挙され会長も務め、現在は理事として芸術文化活動の普及や支援にも取り組んでいる。
 大学卒業後は県内の中学校で美術教師として、絵画やアートを通した生徒の表現力や感受性を育む教育に力を注いだ。「美術や音楽は心と人生を豊かにしてくれる」と蒲生町で開催する体験型のイベント「カモコレ」で絵画教室の講師をするなど、地域や参加者に芸術の楽しさを伝えている。


 「画家じゃなければ、作家になりたかった」と文学や短歌もたしなみ、南日本短歌大会で「大会賞」を受賞するほど。自然やふるさとの風景を詠む短歌は絵の表現にもつながり「昔は川や山を走り回り楽しかった」と子どもの頃の記憶も作品に生きている。「鮎が泳ぐ川や赤とんぼが舞う田園風景が未来に残ってほしい」と願いを込め、ひとの心に魅せる郷土の情景を描き続けたいと筆を握る。

野村作品

文部科学大臣賞に選ばれた「溶岩台地・桜島」(油絵)。風景をそのままに描く写実とは異なり、筆づかいや色彩豊かに、桜島の姿を表現している。

野村教室

絵画やアートに興味を持つきっかけになってほしいと、初心者でも描く楽しさを感じてもらえる絵画教室を実施する。

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