TOP > ストーリー > 「野」にひろがる「草」の世界

ここから本文です。

「野」にひろがる「草」の世界

川原

野草で伝える身近な自然の案内人

 「苦手分野の克服がきっかけ」と笑いながら話す川原さん。県内に生育する野生の植物を中心に生態や特徴を独自に調査。図鑑や手引書を制作し、著書には「野草を食べる」「南九州の樹木図鑑」などがある。また、環境省が実施する日本列島の動植物の生態系を長期的に観測する「モニタリングサイト1000」の調査員を10年以上にわたり務めている。
 川原さんは加治木町(小山田)に生まれ、龍門司焼の陶工だった父祖をもつ。子どもの頃は、斜面に並ぶ登り窯の残り熱でタケノコなどを焼いて食べていたと懐かしむ。「科学的な現象が不思議で好きでした」と高校・大学と進学し、目標だった理科の教諭に就任した。授業では、物理や化学の実験は想定する結果が得られるものの、興味の薄かった生物の分野では悪戦苦闘。特に植物などの観察や実験では予測した結果に導けないことがしばしばだった。そこで植物の知識を広げることができればと「鹿児島植物同好会」や「日本シダの会」に入会。植物の名前がわかると愛着が沸いてきて、次第に野草の世界に魅かれていった。


 各地に足を運び、植物の観察や写真撮影を続けるうちに、その活動が東京の出版社の目に留まり、当時の赴任先だった屋久島の植物を紹介した「世界自然遺産の島・屋久島の植物」を出版。それ以降、植物に関する本を14冊出版している。「名前をはじめて知った」「食べてみるとおいしかった」と読者からの感想が寄せられ、野草の魅力を共有できた喜びを語る。川原さんは書籍制作のほかに、里山の保存再生を目的に漆(蒲生)で活動する団体「うるし里山ミュージアム」に所属し、植物の調査や野草をテーマにしたイベントの講師などにも力を注いでいる。


 「手品が心の距離を縮めてくれます」と受講者に趣味の手品を披露するのも川原さんの楽しみ。子どもの育成と地域交流を目的に重富校区コミュニティ協議会が実施する地域塾「けんのひら塾」にも参加。植物採集と標本づくりを通して、子どもたちに自然への興味や感受性を育んでほしいと願う。身近な植物に目を留め、観賞する体験が心の豊かさや自然愛護につながってほしいと想いを胸に、これからも草むらを見つめながら散策を続ける。

散策

 環境省と取組む植物の調査。里山に生育する植物の名前や花・実などの状態を長期的に記録する。

ページの先頭へ戻る