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世界をまたにかける新進気鋭の映画監督

映画の力で多くの人を幸せにしたい ―― 。
「わずか2、3時間で人生を変えられる。前向きに生きる力となれる」と映画が秘めるポテンシャルを語るのは本市在住の映画監督、伊地知拓郎さん。自身が監督として制作にあたった映画「郷」は昨年6月の上海国際映画祭で、アジア新人部門の監督賞と作品賞のダブルノミネートに輝いた。さらには、同年11月に中国の重慶市で開催された映画祭「35mm批評家週間」で最高賞の最優秀批評家賞を受賞。国内では文部科学省の選定映画に認定されるなど、幅広い場で脚光を浴びた。そんな伊地知さんは現在26歳の若さでメガホンを振るう、まさに新進気鋭の映画監督。
伊地知さんが映画と出会ったのは幼少期の頃。映画をレンタルして観るのが趣味だった父の隣に座り、映画の世界にのめり込んでいった。これまで邦画や洋画など世界中の作品で様々な感性や文化に触れ、考えや価値観が変わるような感動や衝撃を受けた作品も多くあったという。「自分の人生観が変わるような映画は、観た後に〝良かった、感動した、気持ちがあふれる〟といった感覚に陥る。でも、言葉では100%を説明できない。言葉での表現以上のものが映画にはある」と映画の魅力を話す。

上海国際映画祭でノミネートされ、レッドカーペットを歩く伊地知さん(写真左)。
高校卒業後、世界の国立大学で唯一、映画を専門的に学べる「北京電影学院・監督学科」に約400倍もの倍率を突破して入学。そこで映画監督に必要なスキルを一から学んだ。在学時、一緒に映画制作に取り組んだのは、生まれ育った国も違う、言語や文化も異なる仲間たち。演技指導を円滑に進めるために伊地知さんは中国語と英語を習得。作品を作り上げるうえで重要な演者との意思疎通に全力を尽くした。
卒業後、日本に戻り初めて制作したのが映画「郷」だった。姶良市をはじめ県内各地がロケ地になっているこの作品。新鮮で美しく、一方では苦悩や儚さもある少年の青春を通した「命の尊さ」がテーマとなっている。昨年度、加治木中学校で上映会を開催。上映後に生徒から寄せられたのは「感動した」「生きることに前向きになれた」といった声。伊地知さんのモットーでもある「映画を観た人に幸せになってもらいたい」という願いが通じた瞬間だった。
映画「郷」は今年5月にドイツ、6月に東京(TOHOシネマズ六本木ヒルズ)、7月にイタリアで上映されるなど、国内外で注目を浴びる。今後もまだまだ続く、若き監督の挑戦に目が離せない。

刻一刻と動く自然の一瞬を撮るため、撮影のタイミングに念を入れる。