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心ふるわす感情を乗せた詩
詠い手も聞き手も詩の世界に引き込まれる―。
一たび詠いはじめると、空気が「しん」と静まり、熱気がこもった声に聞き手が引き込まれる―― 。 漢詩や和歌、俳句などさまざまな詩に音程となる〝節〟をつけて詠う、日本の伝統文化「吟詠」。令和5年5月に開催された全国吟詠コンクールの鹿児島県大会で優勝し、2連覇に輝いたのは本市在住の桜井梨香さん。後の7月に宮崎県で開催された九州大会に本県代表の思いを胸に臨んだ。「大舞台でプレッシャーはあったが、結果がどうか気にならないほどの達成感で、思い切り吟詠ができた」と振り返る顔は清々しい。全国レベルの吟詠はさらなる高みをめざす向上心につながったと話した。
桜井さんが吟詠と出会ったのは小学3年生の頃。地域の廃品回収で、たまたま立ち寄った家が吟詠教室だった。「伴奏に合わせて美しい声色で詠われる詩吟に惹かれた」と友人と一緒に興味本位で吟詠の門を叩き、後の師匠との出会いとなった。腹の底から声を出し、作者の心と共鳴して情景を浮かべながら詩を詠む。その奥深さと魅力にどっぷりと浸かり、ひたすら吟詠に打ち込み、数々のコンクールにも出場。その傍ら、老人ホームの敬老祝賀会や寺院での奉納吟、夏祭りでの舞台など様々な場面で詩吟を披露すると、多くの人から「感動したよ、ありがとう」と言葉をもらった。感謝される喜びにやりがいを感じ、さらに吟詠が好きになった。
「嬉しい・楽しい・悲しい・懐かしい」など人の様々な感情を表す言葉は吟詠の盛り上がりとなる部分。いわゆる〝聞かせどころ〟は特に思いを込めて表現すると話す桜井さん。例えば「遠くにいる人を思って」といった詩を詠う場合は、遠くにいる友人を実際に思い浮かべて会いたい気持ちを膨らます。あふれた感情を声に乗せて詠うと温かな空気に包まれる。その感動を味わえることがまさに吟詠の醍醐味と話す。
学業や結婚子育てなどで一旦活動を休止し、趣味の範囲で詩吟を楽しんでいた桜井さん。子育てが一段落した頃の師匠との再会をきっかけに平成31年に活動を再開した。数々の大会で受賞を重ね、併せて昇段試験で師範に合格し許証を受け、姶良支部を開設。個人教室も開始し月2回程、姶良公民館で稽古を続けている。今では鹿児島の吟詠界を代表する詠い手となった。「いつか吟詠を通して、姶良の魅力溢れる方々と和洋織り交ぜた新たな芸術を形にし、姶良市の文化芸術祭などで客席を満員にして、心ふるわすステージを届けたい」と密かに夢を膨らませる。
令和5年に開催されたかごしま総文祭や吟剣詩舞部のサポート応援、県内外の詩吟に関する大会役員など詩吟界で大きな役割を担う。本市で詩吟教室を立ち上げ伝統芸能の継承のため指導者としても尽力。「合吟(ごうぎん)」といわれる複数人での吟詠を鹿児島のメンバーで結成し、大会に出たいと展望を語る。4児を育て上げた桜井さんの今の楽しみは孫と会う時間。