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編み込む技とご縁への感謝。

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たゆみなく、しなやかに。伝統工芸の美。

 正月飾りに憑いてきた悪霊(鬼)を追い払う鹿児島の伝統行事「鬼火焚き」。市内でも数は減ったもののさまざまな場所で行われ、年始めの風物詩となっている。なかでも、その炎の恩恵にあやかろうとたくさんの人が集まる「山田の里 鬼火焚き」の櫓には、顎から角の先まで5・5メートルの巨大な鬼面が取り付けられる。矢を射り邪を払うと地域の子どもたちが火を入れ、竹の櫓と鬼は瞬く間に炎の塊に。時折、パンッと竹が破裂する音が見物客を驚かせる。 
 「鬼の面を楽しみに多くの人が山田に集うのは嬉しいことです」と話すのは鬼面の作り手で竹細工職人の柚木一德さん。現在はなくなってしまったが、かつて櫓の大きさがギネス級と言われた三拾町の「姶良じゃんぼ鬼火焚き」で地域おこしを目的にはじまった鬼面制作も今年で9体目になった。普段はざるやかごなどの繊細な民芸品を手がけるが、この時ばかりは不敵な表情を浮かべる大迫力の面を作り上げる。ダイナミックな見た目に反し、その細工に目を向けると、竹の直線と曲線を活かし、見事に編み組みされた規則的な骨組みに職人の息づかいが宿る。

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炎に包まれる鬼面は迫力満点。中には泣き出す子どももいる。

 父親が剣道の竹刀職人だった柚木さん。幼少期から竹は身近なものだったが興味を抱くことはなかった。就職で県外に出て帰鹿したのは平成3年のこと。妻の早智子さんとふらっと立ち寄った宮之城の伝統工芸センターで竹細工を目にし、言葉にはしがたい心惹かるような強い衝動を感じた。募集のあった竹細工教室に夫婦で申込み。先人が残した教本なども手に取り、基礎から6年間学んだ。
 竹は自ら山から切り出し「油抜き」と呼ばれる釜で竹を煮る工程と天日干しを経て、さらに寝かせること半年。ようやく竹ひごとして使えるようになる。「竹ひごを見てどんな加工に向いているかがわかります。あとはどこでどのように使われるのか思い浮かべながら数学的に編み込んでいくんです」と使い手の日常に寄り添う物づくりにこだわる。厚さ1ミリにも満たない竹ひごだが、しっかりと編み組まれた作品は弾力性があり長命。艶やかな表面はゆっくりと歳月をかけて徐々に飴色に変わっていくという。
 「竹細工はたくさんのご縁をくれる。手間をかけてでも喜んでもらえるものを届けたいです」と柚木さん。ざるひとつ、かごひとつの注文にも使い手の笑顔のために丁寧な仕事で応える。今年の鬼火焚きでも竹をとおしてたくさんのご縁を紡ぎ、一年の安寧を願う人々に笑顔を届けた。

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下名の自宅で妻早智子さんと竹細工工房を営みながら、北山伝承館で竹細工教室の講師を務める一德さん。笑顔の中でこそいい作品が生まれると講座はいつも明るい雰囲気。人に指導しながら自身も「伝える」「教える」ことの学びを深めているという。

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 平成22年には宮崎県都城市山之口町の弥五郎どんのご神体を手がけた。全長約4メートル。

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