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命の実感(リアル)と輝き届ける表現者

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心で演じ、自分ではない誰かを見せる。魅せる。

 「公演を終えると山に入って、良かったこと悪かったことを振り返ります。無事に下山したときの〝生きてる〟という実感も芝居に活きてくるんです」と話すのはミュージカル役者、岩澤剣司さん。振付師や演出家の顔も併せ持ち、舞台ではマルチに才能を発揮する。近年は「身体を動かす喜びを感じてほしい」と離島含む県内各地でワークショップの講師を務めるなど活躍の場を広げ、ミュージカルの普及にも取り組んでいる。
 歌やダンスで役を演じ、感情や物語を表現するミュージカル。小学4年から習い事として始めてから、多くの舞台を経験してきた岩澤さん。平成27年には、本県で日本最大の文化の祭典「国民文化祭」が初開催され、皇太子同妃両殿下が見守る中、オープニングフェスティバルで大役を演じた。離島の会場を中継で結んだ総勢1300人による演奏や映像、パフォーマンスは圧巻だった。「壮大なスケールで、達成感もひとしおでした」と18歳だった当時をふり返り笑顔をこぼす。

 「昔から歌よりダンスのほうが得意でテレビのダンサーを真似て遊んでました」と身体を動かすことが得意だった岩澤さん。しかし、中学2年、大きな転機が訪れた。足に違和感を覚えると、日が経つにつれうまく動かせなくなり、歩いていてもよく転ぶようになった。神経鞘腫という病だった――。幸い医師の適切な処置により順調に回復を見せたが、一時、下半身の感覚が完全に失われた経験は自らの死生観にも変化を与えたという。「身体を動かすことができるのは当たり前ではない。嬉しいとか楽しいとか、自分の内側から出てくるものをもっと全身で表現したい」と現在の舞台活動でもポリシーの根源になっている。

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 端正なルックスと、凛とした雰囲気が印象的な岩澤さん。言葉には力強さを感じるものの、その姿勢は実に謙虚。観客や仲間、周りの全ての人への感謝を決して忘れない。4月に長年在籍したスタジオを離れ独立。師から学び、積み上げてきた経験を糧に、ミュージカルの世界を翔ける。
写真は鹿児島の英雄 西郷吉之助(隆盛)を演じた舞台。客からもらった「ありがとう」の一言が忘れられない。

 これまで市外での公演が多かった岩澤さん。今後は地元でも表現の場を広げていきたいと意気込む。7月には蒲生で子どもたちと2泊3日で台本作りから取り組むミュージカルキャンプを実施。子どもたちは意見を交わし自らの手で、自由な発想あふれる物語を完成させた。「姶良の歴史や郷土芸能、神話なども取り入れてお芝居のヒントにしたい。その中でたくさんの人たちとつながっていけたら幸せですね」と展望は明るい。
 小さい頃は人前で自己紹介もできなかったと話す少年は今、そしてこれからも多くの観客の視線の先でのびやかに歌い舞う。

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 趣味の登山。苦しい道のりの先の絶景は格別。舞台にも同じ醍醐味を感じると話す。

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