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小さな命のあしたのために

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「愛」で「護る」動物と共存できる社会——。

 「幼少期、風邪などで体調を崩したときに診察や処置をしてくれたのは医師である父でした。次の日には元気になっていることに医療の凄さ、素晴らしさを感じたんです」と話す上野弘さん。父の姿に憧れ、いつしか命と向き合う仕事を志すようになった。昭和54年27歳の時には本市脇元に上野動物病院を開院。まちのかかりつけ医として小さな命を救い続け今年で44年が経つ。
 言葉が通じない動物たちは、飼い主が不調を察するのに時間がかかるため、そのほとんどが症状が悪化した状態で運ばれてくる。「いつからどうあるのか、飼い主の言葉をヒントに丁寧に診てあげる必要があります」と上野さんは呼吸の仕方や歩き方、目の動きや耳の中まで細やかに観察し、身体を触りながら心を通わせるように処置を施す。中には体温が35℃を下回り衰弱しきった犬や猫(平熱はヒトより少し高い38℃程)がやってくることもあるが、体の状態と考えうる処置について詳細に説明し、飼い主の意向や気持ちにもしっかりと寄り添う。「なんとか助けてあげてほしい」と依頼を受け、まさに瀬戸際にあった命を救うことができたときには、これこそがやりがいなんだと実感するのだという。

 上野さんが大切にすることのひとつに動物と人間が共生できる環境づくり
がある。地域の野良猫にも「彼らは今、幸せだろうか」と思いを巡らせ、仕事の合間を見て生態調査をしたこともしばしば。「我々、人間の無責任な餌やりや多頭飼育崩壊などで殺処分させる命があってはならない」と動物への愛情の在り方に目を向ける。また、県獣医師会の会員として、狂犬病予防の集合注射に開院当初から協力を続け、犬を病気から守るだけでなく、人も狂犬病から守っている。「ヒトでもペットでも、命の重さに差なんてない。たくさんの愛情の中で健康に生を全うしてほしい」と、その願いを行動の原動力に変えている。
 現在、4世帯に1世帯が犬もしくは猫を飼育していると言われている日本社会。家族の一員としてペットを迎え入れることで新たな絆が生まれ、何より心が癒される。だからこそ大切にしてあげてほしいと上野さん。「寒くなるこの時期は風邪もひきやすいしね」と笑顔は実にやさし気であたたかい。上野さんは今日も、そしてこれからもペットに対する飼い主の愛情に応え、小さな命を救い続ける。

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 地域の自治会長を通算6年間務め、住民からの信頼も厚い上野さん。「病院と地域活動は全く関係ないですよ」とにこやかに話すが、地域住民から「近所に弱った野良猫がいて…」と持ち込みや相談を受けることもあるのだという。趣味は“同窓会の幹事”。中学校、高校、大学それぞれの幹事を進んで引き受け、青春を共有した仲間たちとの再会をセッティングしている。何かと頼りがいのある上野さんのもとには人も動物も自然と集まってくるようだ。

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