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道を啓く明鏡止水の一矢

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果てしない鍛錬の先に日本一を射抜く。

 女子弓道日本一を決める「全日本女子弓道選手権大会」。的を射抜く技術はもちろんのこと、礼を重んじる作法や慎ましい振る舞いなど、品格までも求められる同大会の優勝者には、その栄誉と健闘を称え皇后盃が贈られる。今年は明治神宮を会場に9月29日から3日間に渡って開催され、全国からおよそ50人がエントリー。その中に鹿児島県大会、九州大会を勝ち抜き、姶良から出場した選手がいた。

 田中慶子さんは重富中学校弓道部出身。「袴に憧れがあって友人と一緒に入部したのが始まりです」と当時、同校が全国大会常連の強豪であることも知らずに門戸を叩いたという。顧問や先輩に弓のいろはを学び、やればやるほどに上達していく射技にみるみるのめり込んでいくと、気づけば部活終わりに姶良弓道場に移動し練習するように。射っては修正、射っては修正の反復が日課になった3年生の頃には、全国の練成大会で4本の指に入る実力者となっていた。その後も高校、大学と県外の強豪校に進学。日々、的に向き合い、弓とともに歩んできた。
 そんな田中さんが初めて挑んだ全日本女子弓道選手権大会。日本各地から〝先生〟と呼ばれるような有名な弓道家が顔を揃え、会場には品格が漂う。「雲の上の世界。あまりの緊張に息をするのもままならなかった」と振り返る。

 予選は作法の点数と合わせて審査されるが、4射中3射を外した時点で失格となり順位もつかないシビアなもの。そんな中、田中さんは1射目、2射目を連続で外してしまった。まさに崖っぷち。しかし「ここまで来たからには何としても」と奮起し、残りの2射を意地で射抜いた。予選を8位で通過すると、10射中、当てた数のみで競う決勝に進出。息を整え、集中し、1射ずつ――。「これまでの積み重ねを丁寧に。中りは後からついてくる」と、1射ごとに発表されていく自分や他の選手の的中数に目もくれず引き切った。その瞬間、湧き上がる場内。何が起こったのかと立ち尽くしていた田中さんに、隣の選手からおめでとうの声。なんと優勝。最高峰の大舞台でただ一人8射を当てていたのだ。
 大会から1月ほど経っても「いまだに信じられない」と田中さん。「これからも弓友たちと楽しんで競技を続けていきたい」と皇后盃を手にした日本一は慢心のかけらも見せず「あの場に立てたことが幸せ。みんなに感謝したい」と謙虚に語る。

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 学生時代は挫折することもあったが、それでも這い上がってきた田中さん。だからこそ崖っぷちには強いのではと笑顔。同じ道場の弓友は「スイッチがある人」と表現。普段は笑顔がチャーミングで周りを和ませる人柄だが、いざ弓を構えるとスッと表情が変わる。全日本女子弓道選手権大会の出場条件となる五段に昨年12月に昇段し、今回、初出場で初優勝。同大会の優勝は県勢初の快挙だった。結婚、出産を経て令和4年に帰鹿。現在は姶良市役所の会計年度任用職員として仕事をこなす。

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