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キャンバスに乗せる心の色

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描きたいもの、表現したいものを感じるままに

 毎年4月26日から東京都美術館で開催される油彩画、水彩画、版画の公募展「東光展」。高い技術と豊かな表現力で描かれた力作ぞろいの展覧会に、今年は15日間で1万3千人が訪れた。中でもキャンバスの長辺が1メートルを超える「大作部門」はまさに大迫力。ダイナミックにして、繊細なタッチで描かれた作品の数々は大きな見どころとなった。その大作部門536点の中で栄えある最高賞「文部科学大臣賞」に輝いたのは本市の樋口文子さん。なんと県勢初の快挙だった。
 「まさか受賞するとは思ってもみなかったです」謙遜する樋口さんが描いた画題は「ジャグラー」。4つの球でパフォーマンスする男性の躍動感と、緊張感が伝わってくるような表情が印象的な作品だ。視覚的な色にとらわれることなく、心が感じた色で表現する特徴は〝フォーヴィズム〟と呼ばれ、作品「ジャグラー」では男性の肌に青や赤などが使われている。不思議とその色彩には全く違和感がなく、むしろ空気感を一層引き立てているように見える。

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 「昔から絵を描くことが好きでした。まだ小さかった子どもをおんぶしながらスケッチにふけったこともありましたね」と笑いながら振り返る樋口さん。本格的に芸術活動に打ち込み始めたのは40代のとき。恩師の故 岩下 三四先生の絵に感銘を受けたのがきっかけだった。「完成したときの達成感よりも筆を握って没入している時間が好きで」と自宅の一室をアトリエ代わりに夢中でキャンバスに向き合った。
 樋口さんがこれまで継続的に描き続けてきた作品に「人形つかい」という題材がある。モデルは東京を中心に活動するフランス人パフォーマー。音楽に合わせ〝バイオリン弾きの人形〟を巧みに操る姿に魅せられ20年ほどテーマとしてきた。取材とデッサンのために東京へ度々、出向いたという。心が動くその瞬間を切り取る力強いタッチは高く評価され、昨年は日本最大の総合美術展覧会「日展」で特選を受賞。近年は変化を求め他の大道芸人も描き始め、その初作が今回受賞の「ジャグラー」であった。
 東光展は6月15日㈭から25日㈰の期間、鹿児島市立美術館でも巡回展として開催される。「たくさんの人に作品を見てもらえたら嬉しい。絵画の世界の魅力を感じていただきたい」樋口さんが心動かされ、心のままに表現したダイナミックな一枚が地元に凱旋する。

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東京都美術館での展示の様子

 自身の芸術活動の傍ら、本市を代表する絵画展「10号美術展」の実行委員を務め、美術界の発展に尽力。県内の公民館や美術館で絵画教室の講師も努める樋口さん。「指導してくださった先生方や仲間・友人、いつも支えてくれる家族のおかげで続けてこられた」と絵をとおした人とのつながりに感謝の念を忘れない。

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